クラゲドーナツ

クラゲドーナツは虚無の味

短歌 2023年9月

BPM120より高鳴って嬉しいことがわかり嬉しい

 

宝石は青い炎のみちしるべ輝く君をたよりに歩く

 

日にそよぐ花が咲くまでほほえみを紡いだ声と水がながれる

 

 

今回の鑑賞で選んだ歌集ですが、個人的に触れてきた娯楽やインターネットが近いところを感じました。そういうものを含んだものやメタ的な短歌もあるので90年代生まれは近いものを感じるかもしれません。

 

鑑賞記録

青松輝『4』

 

数字しかわからなくなった恋人に好きだよと囁いたなら 4

 

 人は音や文字に意味をつけた延長線上で、同じ音や連想から全く異なる意味を見出すことをする。つまり「4」と聞いて日本では「死」を連想することが多いだろうという話だ。「し」あわせとして「幸せ」を連想できなくもないが「あわせ」が余っているのが釈然としないし、「し」を「あわせ」るのであれば4+4で8と考えたり、やはり「死」をあわせるという考えにも戻れる。

 さて、この一首では「数字しかわからなくなった恋人」が登場する。極めて特殊な状況をそのまま現実として受け止めることもできるが、私はこれを様々なコミュニケーションの先で恋人となった人と言葉でコミュニケーションできなくなった、と捉えた。

 例えば言語の違う人達が恋人になるような、関係性がない状態から異なる言葉を交わしていくことはあると思う。しかしすでに関係性が進んだ状態で、言葉が届かなくなることはそれほど多いことではない。

 言葉が届かなくなった相手に「好きだよ」と囁く。すると相手は「4」と答える。これをどう考えるか。そもそも相手は「好きだよ」と囁かれてどう思ったか。恋人が何か囁く。言葉の意味はわからないが、恋人の表情や声の調子からそれが好意であることを想像するのは難しくないかもしれない。これは既に関係のある2人ということが活きてくる。言葉はいらないとは言わないが、言葉以外から読み取れることが多いのが初対面との違いと思う。

 「好きだよ」と囁いた返事が「4」だった。数字の意味がわからなくても、「死」を連想する数字でも、返事をしたことが答えではないか。好意を囁いて、相手がそれに応えてくれた。関係性から生まれる信頼として、その意味は分かるように感じる。

 ちなみに後に「数字しかわからなくなった恋人が桜の花を見る たぶん4」という一首が出てくる。「4」が好意的な数字と受け止めているのがわかる。

 では0〜9の中で4であることについて考える。音数としては2音にしたいと考えると、0、1、3、4、6、7、8、9とほとんど残る。人が勝手に特別な意味を感じやすい0、1、7は外すとしよう。末広がりの8や一桁最後の9も意味が強いかもしれない。これで良い意味も特別感もあまり感じない数字として3、4、6が残る。私にとってはこれ以上絞ることはこじつけにもつながると思うので、4でなければならなかったとは言い難い。しかし先に述べたように「死」という悪い方の連想ができる数字が出てくるということには、意味があるようにも思う。ほとんど意味の感じない3、6よりも4にしたい気持ちはある。だから4なのかもしれない。

 上句と「4」の非現実間が強いが、普遍的な恋人への信頼を感じるような歌かと思う。