クラゲドーナツ

クラゲドーナツは虚無の味

推し(中島由貴さん)のサイン会に行った話(あるいは白昼夢の話)

ゴールデンウイークという休みの中、最近写真集を出した推しがサイン会を行った。一ヶ月前に告知が入ったその瞬間から僕は参加する決意をし、予約受付が始まった瞬間に電話をした。

ちなみに推しは中島由貴さんです

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推しのイベントに参加するのは二度目だ。あんまり参加していない理由は住んでいる場所とかその辺り。

前回はトークイベントであった。今まで小さな端末で見ていた人が現実に存在していることを実感した。自分の十数メートル先に実体としてそこにいる推しというのは今までに味わったことのない不思議な感覚を体験だった。

 

さて、今回である。結論から言うとあまりに素晴らしい体験だった。こうして普段書かないブログにしていることからも、感情が溢れ濁流となって私を飲み込もうとしていることを感じ取ってほしい。

当日の朝自分が持っているできる限りおしゃれめな服を着て、UNISON SQUARE GARDENの「fake town baby」を聞きながら電車に乗る。すでにどうして良いかわからない、手持ち無沙汰な状態だ。グラブルも何をしたらいいかよくわからないし、ジョー・イデの『IQ』も同じ行ばかりが目に入る。

 

緊張で溶けそうな体を引きずって会場の書店にやってきた。受付開始時間の30分前に到着してしまい、自分がどれほど楽しみにしているか気持ち悪いほど感じる。さすがに何もすることがないので店内を散策することにした。コミックコーナーで何か新刊が出てないか確認するも、自分のほしいものは特に見当たらない。ふと目を向けた先に、MARVEL特別コーナーを発見した。推しはMARVELが好きで、僕はそれもあってアベンジャーズ一作目までしか見ていなかったMCUをここ最近でインフィニティー・ウォーまで見て、エンドゲームを公開初日に見た。エンドゲームめっちゃ良かったよ・・・

 

しばらくして友人と合流。友人も死にかけている。怯え震え過ごしているとようやく受付開始のアナウンスが入った。整理番号がざっくり呼ばれて友人と多くの人が会場につながる向こう側へ進んでいく。自分もその行列の一部となって進むことになるまで数十秒。その行列が終わって会場に着くのは十数秒。会場はまさしくイベントスペースというような広さで、100人程度入る所だ。前から詰めて座るよう促される。椅子には店舗特典ブロマイドがあり、数メートル先にはサイン会の文字と推しの名前が書かれている。

緊張はピークに達していた。血が流れている実感と、それに伴って熱を帯びていく体が椅子に座って待っている。

 

そして、その時は来た。中島由貴さんが来た。

壇上で話している。すごい。かわいい。肌白い。

なんか会場は盛り上がってるけど全然声出せない。

 

気がつくとサイン会は始まった。前から少しづつ人が減っていく。サインを受け取った人々の顔は喜びに満ちていて、とてもいい時間だなと思う。どんどん自分の番が近づき、どんどん鼓動が強くなるのを感じた。

 

ついに自分の番が来た。

前の番だった人とお別れを済ますとこっちを向いて挨拶してくる。本当に現実かどうか疑わしい。VRサイン会ではないかと思うが、あらかじめ書かされていた、サインに書いて欲しい名前を渡すと、その通りの発音が聞こえた。

何か話さなければ。たった10秒ほどの時間で何が言えるのか。わからない。今まで何度もこの瞬間をシミュレーションしたのに何も出てこない。なにが言いたいか。どうしたらいいのか。

気がつくと口から「なに話そう」と出てしまった。失態だと思う。でも中島由貴さんはこういった状況にもよく慣れていらっしゃるのであろう、すぐに「何話す?」と返事してくださった。

私がこの時唯一思い出し、話せると思ったことはこれだけだった。

 

「し・・・しまゆきさんのおかげで、エンドゲーム間に合いました・・・」

 

しまゆきさんは「めっちゃ良かったよね〜!」や一言だけ内容についておっしゃってくれた。共通の話題で話すという体験をできてしまい、とても嬉しく思う。

そこでサインを書き終わり、僕は写真集を受け取った。最後にしまゆきさんは「またね!」とおっしゃるが僕はもう声を出すことができず、ただ会釈するしかなかった。

本当は応援してます!だの、たくさんお仕事してらっしゃるので体調お気をつけてください!だの、いくらでも言うべき言葉があったはずなのだが、僕は上の一言しか声にできなかった。

 

初めてのサイン会はこうして無事帰ってこられた。一瞬で過ぎ去っていく流れ星のような時間だったが、永遠にも感じられる濃度の世界だった。

本当に現実だったのかどうかは定かではないし、記憶通りの事が起こったかもわからない。ただ書店の袋に入った写真集とその表紙に写る推しの目が、記憶に強く揺さぶりをかけた。

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