クラゲドーナツ

クラゲドーナツは虚無の味

ラストナイト・イン・ソーホー

 「ラストナイト・イン・ソーホー」を見た。「ベイビー・ドライバー」のエドガー・ライト監督最新作。
 ファッションデザイナーを目指す女性が、夢の中で60年代の歌手を目指す女性とシンクロしていき、現実に侵食してくるサイコホラー。
 ベイビー・ドライバーが大好きでその監督の最新作ならば見なければとわくわくして見に行った。事前にあまり情報を入れずに。
 ベイビー・ドライバーからの振れ幅がすごくてこんなに全然違うもの作れるのかと驚いた。
 
 おおまかな感想。
 めちゃくちゃ嫌な気持ちにさせられるすごく良い作品だと思う。色がめちゃくちゃキマっててキレイな映像も良かった。
 性暴力描写があるので万人には薦められないけれど色んな人に見てほしいように感じた。
 最近レトロが流行っているけれど、古き良き時代ってなんなのか見つめ直す機会になるんじゃなかろうか。
 
 
 以下ネタバレありの感想
 主人公のエロイーズが好きな60年代は古き良き時代だっていう描写から、本当に良き時代なのか?ということを見せつけてくるところがすごく恐ろしく感じて良かった。
 色んなことで古い記憶は修正されたり、悪い記憶を隠そうとするから今から見ると昔が良かったように見える。実際には最悪の時代であるかもしれないのに。そういうことを見せられたように思う。
 60年代の暗い部分を見ながらそれが決して今なくなった闇の部分だとはしていないのも嫌な気持ちになる。クラブで今も人は踊るということは、他の要素も今に続いていることを示唆しているように感じた。序盤の電話ボックスに電話番号が書かれているのとかも暗い部分の延長線上なんじゃないだろうか。
 権力のある男性達が本当に最悪の存在だった。紋切り型の同じ受け答えしかしないところとか嫌すぎる。一人の人間として見られてない感覚、女性という塊でしか見ていないような言葉だと思う。そういう男性という塊に襲われ続ける後半が本当に苦痛だと感じた。
 最後彼らに同情しない選択肢を選ぶところはとても良かったと思う。死ぬより酷いことをし続けた報いだからというわけでなく、許さないことがサンディを救うことになるように思うから。
 彼女を殺したのは間違いなく彼らだし、彼女は彼らに復讐をはたした。その行いは目には目をのように道徳的な行いとはいえないけれど、それを誰かが許さなければ永遠に救われない状態だったと思う。それを救ったのがあのシーンだったんじゃないかな。
 最後のランウェイの場面で60年代の衣装を再現したものを完成させたというのも、サンディの美しさを残そうとするようなことだと思う。詳細なセリフは覚えてないが、主役は服じゃなくて人間だということを言っていたと思う。60年代という時代は最悪かもしれない、でもあの時代を生きたサンディは美しい存在だということを示しているように思った。
 大好きな古き時代の全てを見た上で、悪しき部分をなかったことにするわけでなく良き部分を見る。そういうバランス感覚で成り立っているんじゃないだろうか。