クラゲドーナツ

クラゲドーナツは虚無の味

短歌 2022年6月

袖を折り作る気体の通り道晒した肌は知る 終わったね。
 
夕焼けが時間を騙すもうすでにバスは過ぎ去るというのに赤
 
こっち来い雨降る街の前線へ濡れた覚悟で駆け抜けろ君
 
くじらの子海はそれでも小さくて動いてはひび割れる水槽
 
ウグイスは夏近づけど春告げて終わることのない谷渡りゆく
 
どこから来たかだけ光る駅看板未来は誰にもわかってるから
 
七時でも明き空 青灰色の雲を象る澱んだ宇宙
 
ファミチキを路上で食べた夕闇にこれが生きてた証はどこへ
 
総員!直ちに道を封鎖せよ!コンビニ寄ってゆっくり帰ろう
 
まだ0時だけれど月は傾いて知らない国へ逃げようとする
 
服を着る、都会へ出かけ服を見る。昨日死ぬならそうしたかった
 
誕生を人はいつまで喜ぶの明日が波のごとく近づく
 
食べられた2キロバイトの文字列は海に行けない砂浜の穴
 
目を閉じて眺む光は全て虹電球の丸血潮の星屑
 
街中に足ばら撒いて踊る僕独り歩道と車道を渡る
 
赤子分ぐらいの重さを抱えてスーパーと家を繋ぐ命道
 
水色のネオンライトの窓ガラスここを進めばと思いながら
 
渡されたビンに入ったウーロン茶もうそこにない命の話
 
麻紐が千切れるように引っ張って関係性を失おうとする
 
土の中眠る遺物に教わったあいつもいつか教えることを
 
宝石の澱みを飲んだ怪物が僕から君を飲み込んでいく
 
二本指立てればpeace逆さまにしても人だし自立している
 
深林が飲み込むような眠りから抜け出せずいる冷房の風
 
この世でも地獄の君を救いたいという思いも祈りには邪魔
 
熱帯夜絶対嫌だともがく腕べったり湿る寝間着の中へ
 
風吹けば桶屋が儲かるはずなのに熱で桶すら乾涸びている