クラゲドーナツ

クラゲドーナツは虚無の味

歩くこと。歩き続けること。

 バスに乗って下校していた夜、理由のわからない焦燥感と不安に全身を包まれて、私は逃げるようにバスから降りた。川沿いのバス停。街灯も少なく、暗闇に包まれた川が轟々と流れている音に辺りは満たされていた。

 暗闇の川沿いを歩く。影そのもののような塊がまばらに動いているのが見えた。ジョギングする塊、寄り添う二人の塊、音楽を奏でる塊もいた。

 遠くで車が駆け抜け続けている。川と車がノイズを出して他のノイズをかき消した。私を包む影と一人ぼっちにさせて、ここには誰もいないことを教えてくれた。影は当然話さない。会話をするのは頭の中にある談話室だった。私は相談事をした。理由の分からない焦燥感と不安について。会話の内容はプライバシーに配慮して守秘義務があるらしい。

 まあ、自分自身に答えがないのに見つけられるわけもない。暗中模索とはこのことだ。しかし答えが見つからないなら見つからないで、少し心が落ち着く時間でもあった。ただただ歩くことしかできない空間で、ただただ歩くことに時間を費やした。この心地よさは普段あまり味わう部類のものではない。寂しさではない孤独感。目的地が曖昧で時間の流れも気にならない空間。それが川沿いだった。

 

 私は今後幾度となくこの道を歩くだろう。不安と焦燥から解放される時まで、あるいはこの道に近づくことができなくなるまで、ここを覚えていようと思った。ずっと前の話か、つい最近の話だ。