クラゲドーナツ

クラゲドーナツは虚無の味

『出版禁止 いやしの村滞在記』

 長江俊和『出版禁止 いやしの村滞在記』を読んだ。https://www.shinchosha.co.jp/book/336174/
 唸るほど面白い。本を読んでいて大きい声で「えっ!!そういうこと!?」と言ってしまった。この本は最初から疑ってかかっていて、途中にもたくさん違和感を感じていたにも関わらず、最後まで真相に辿り着けなかった。明かされた瞬間「書いてあったのに!」と気持ちいいまでの敗北をした。
 1日で全部すっかり読んでしまった。でももう一回読みたいというか、もう一度読まなきゃと思わせる作品になっている。
 この本に出会ったのは兄のおかげなのだが、読むきっかけになったことにこの作者が手がけた「放送禁止」という作品がある。ドキュメンタリーを装った作品、フェイク・ドキュメンタリーで、なんらかの事情で放送禁止になったVTRを再編集し放送しているという。「事実を積み重ねることが必ずしも真実に結びつくとは限らない」という言葉とともに一見ふつうの、なんとなく違和感のあるドキュメンタリーが放送され、最後に「あなたには真実がわかりましたか?」と問いかけられる。
 僕が見た「放送禁止」は4「恐怖の隣人トラブル」と5「しじんの村」だけなのだが、「恐怖の隣人トラブル」で流れる映像で積み重ねられた事実が最後に一気に崩れ去っていく恐怖を感じ、「しじんの村」では自身で情報を再構成して真実にたどりつく快楽を覚えてしまった。あまりに面白い映像体験だった。
 そして作者曰く「放送禁止」が映像でしかできないことならば「出版禁止」は文章でしかできないことを行っている。この文章でしかできないことというのが本当にうまい。この作品は映像には決してできない。文章でしか見ることのできないものを創り上げている。最高に面白い。
 中身についてはほとんど何もいえない。悩みや苦しみを抱えている人を癒すという「いやしの村」についてのルポルタージュなのだが、これは一度消滅した「幻の書籍」で、これにはある「呪い」がしかけられているという。それが一体なんなのかぜひ読んでみてほしい。また実際に読む時は必ず1ページずつ慎重にめくっていただきたい。その1ページに書かれている言葉を全て見落とさないために。
 全てはそこに書かれている。