クラゲドーナツ

クラゲドーナツは虚無の味

『ナイトフライヤー』

 一ヶ月以上かかってしまった。しかし時間がかかってしまってもこれほど面白い作品にめぐりあえて嬉しく思う。
 表題作の「ナイトフライヤー」のSFホラーっぷりから、最後に登場するヒューゴー賞受賞作「この歌を、ライアに」のファンタジーまで、幅広い世界の中を歩き回りながら人間の深いテーマを描いていてとても素敵な作品集だった。
 個人的には最後の「この歌を、ライアに」が好き。「ナイトフライヤー」も捨てがたいな。結局は全部面白いのだけれど。
 「この歌を、ライアに」は人類が宇宙に進出するようになった世界が舞台。シュキーン人という種族が行う自殺行為を伴う宗教に人類の改宗者が増えている問題を調査するテレパスの能力者二人の物語。
 ミステリ的展開と解決になるのかと思いきや非常に深いところまで物語が進んでいく。ファンタジー要素、SF要素が入り交じる序盤はまず世界を理解することから始まるのでとっつきにくいところもあるけれど、それを乗り越えるとこの世界でしか味わえない快楽を感じさせてくれる。
 あと根底に流れている人間はまさしく人間の姿であって孤独感や愛情のような感情がそのまま流れ込んでくるのも面白い。ジャンル小説侮るなかれという内容。
 一方で「ナイトフライヤー」のSFホラー部分の展開の良さも驚くものがある。光景が目に浮かびその恐ろしい展開に飲み込まれていく。読むのに一ヶ月強かかっているが読んでいない日も多かった。読んでいる時はページを捲る手を止めたくないと感じるような展開があった。
 本当に面白い作品集だった。
 さて、ジョージ・R・R・マーティンの〈氷と炎の歌〉シリーズに俄然興味が湧いてしまった。1巻でさえも『ナイトフライヤー』級のサイズで上下巻。楽しみだが他の読みたい本がたまる一方になりそうなので一度違う世界をふらふら見てからまた帰ってこようかなと思う。
 ドラマの方の「ゲーム・オブ・スローンズ」も途中になってしまっているし、「エルデンリング」まであと数ヶ月だし。まだまだジョージ・R・R・マーティンにふれる機会はたくさんある。
 でも人生で一回は大長編ファンタジーに浸かりたいという欲望もあるので必ず帰ってきます。